【書評】宇宙の覇者 ベゾスVSマスク【地球規模の問題に革新的な取り組みで挑む挑戦者たち】

アポロ計画の終焉からおよそ50年。

人類は、太陽系はおろか、アポロ計画で実現していた月に人を送るということさえできなくなっていました。

そこに彗星のごとく現れたのは、宇宙への強い憧れを抱いた二人の億万長者、イーロン・マスクとジェフ・ベゾスです。

おぉ、二人ともシリコンバレーの億万長者やないか。

アポロ計画があった当時、二人ともスタートレックをはじめとした宇宙ブームに影響を受けた少年でした。そんな彼らは、ペイパルやアマゾンを起業することによって莫大な財産を築き、それを使って少年時代からの夢を成し遂げようとしています。

今日、ご紹介するのは、イーロン・マスクとジェフ・ベゾスが牽引する宇宙の覇者レースを魅力たっぷりに描いた「宇宙の覇者 ベゾスvsマスク」です。

この物語は、人類を月や火星に送るといった壮大な構想のもと、テストパイロットの犠牲、ロケットの爆発と破壊工作の嫌疑、弱小ベンチャーが巨大軍事産業を相手取って起こした訴訟、政治闘争、そして歴史的な着陸などなど、リスクと胸躍る映画のようなドラマなのです。

では行ってみましょー!

二人に共通する問題意識

ベゾスとマスクは、宇宙に行くという同じ目標を持っているだけでなく、考えている問題意識も共通しています。

ベゾスは、地球の資源には限りがあり、これからは人類を宇宙空間に移すことで、地球を国立公園のように保護すべきだと、わずか18歳の高校生のときにスピーチしています。

そしてマスクも、気候変動や巨大隕石の落下、地球環境の変化を考えれば、このまま地球だけに留まっていると、いつしか人類は絶滅してしまう、そうならないようにするには人類を火星を始めとした多惑星種にするしかないと言っています。

つまり、SDGsで掲げられている地球レベルでの問題、環境破壊と格差のうち、環境破壊についての問題意識を二人とも強く持っているということです。(SDGsについてはこちら

しかし、人類にとって必要となる宇宙開発というものが、約50年前のアポロ計画からなぜ先に進んでいないのかといえば、そこにはコストの問題があったのです。

そこで、ベゾスとマスクは、それぞれやり方は異なれど、宇宙開発という国の仕事を、民間である自分たちが請け負うことで、かかっていたコストを大幅に削減するイノベーションを起こそうとしているのです。

イーロン・マスク率いるSpaceX

SpaceXは、設立当初はマスクの個人資産で成り立っていた小さなベンチャー企業ですが、現在は時価総額が四兆円にまでなっている立派な企業です。

イーロン・マスクは、何かとド派手に話題作りをしながら、有言実行で様々な壁を乗り越えていくタイプの経営者で、たとえばSpaceXが宇宙産業に参画しようとした際にも、巨大軍事産業によるNASAとの随意契約に怒り、訴訟を起こしたりする剛腕です。

そして、2020年7月、SpaceXはとうとう民間企業として初めて宇宙に人を送り、無事に帰還させることに成功しました。「突き進め。限界を打ち破れ。」と有言実行で次々に世間を驚かせているイーロン・マスクは、次に何を我々に見せてくれるのでしょうか。

ジェフ・ベゾス率いるBLUE ORIGIN

BLUE ORIGINもSpaceXと同様に、億万長者の個人資産で成り立っているベンチャー企業です。ベゾスはAmazonの創業者でもあり、世界一の金持ちで資金面はマスクよりもかなり余裕があります。ベゾスはAmazonで稼いだお金をBLUE ORIGINに回して、夢を実現しようとしているのです。

マスクとは好対照の性格であるベゾスは、物静かな秘密主義者で、謎めいたロケット開発を極秘裏に進めてきました。「ゆっくりはスムーズ、スムーズは早い」をモットーとしており、マスクが兎であれば、ベゾスは亀です。

そしてBLUE ORIGINも、2019年1月に宇宙にロケットを打ち上げ、さらに燃料タンクを垂直に着陸させることに成功しています。ベゾスは火星ではなく宇宙空間にコロニーを作ることを目標として掲げ、ゆっくり、しかし着実に歩みを進めています。

この本の見所

Photo by Thom Schneider on Unsplash

超難関といわれる宇宙空間へのロケット到達を民間企業として一から立ち上げて成功させてきた物語は、あの有名なロケットが垂直に着陸するシーンに関わってきた人々の熱い思いがドラマチックに描かれており、必ず読む人を魅了します。

また、ベゾスやマスクの他にも億万長者として宇宙を目指す人物として、バージングループを率いるリチャード・ブランソンも登場します。

彼の物語では、テストパイロットの事故など文字通り命をかけたエピソードに心を打たれるとともに、スペースシップワンのパイロットたちの男の生き様が描かれ、とてもエキサイティングになっています。

ベゾス、マスク、ブランソンといった地球規模の問題に、前例のない革新的な取り組みで挑む挑戦者たちを見ていると、とても自分が小さく見えてくること請け合いです。

なお、ベゾスとマスクの間柄も面白いものがあります。彼らはほとんど親交がないのですが、一度だけ食事を共にしており、その際に宇宙事業で先行するマスクがベゾスに色々とアドバイスをするのですが、ベゾスはほとんどそのアドバイスを聞きませんでした。

また、それから数年後、NASAで使われなくなった発射台(アポロ計画の象徴的な発射台)の入札でベゾスとマスクが争うようになると、Twitterでマウントを取り合うなどライバルとしても面白いエピソードが入っています。

ぜひ、一度購入して読んでみてください。オススメです!

クリスチャン・ダベンポート (著)