書評「大不平等 エレファントカーブが予測する未来」

この本は、世界における不平等を各国内と各国間とで分析を行い、エレファントカーブとクズネッツ波形の2つの概念を発見したことで、2016年にアメリカで脚光を浴びた本です。

ピケティの「21世紀の資本」と並んでみておきたい本だよね。

以前、こちらの記事でも触れたとおり、持続可能な開発目標(SDGs)は世界にとって共通の課題であり、そのうちの二大テーマの一つである不平等の解消は、特に注目すべき事項です。

この本は、その不平等について、なぜ生じるのか、どのように解消されていくのかについて、歴史における精密なデータで裏付けしながら、学びを得ることができる本です。

ではいってみましょう!

グローバルでは中間層が台頭してきている

まずはこちらのグラフを見てみましょう。

エレファントカーブ

こちらは、エレファントカーブと呼ばれるもので、横軸はグローバルレベルでの所得の大きさを表しており、縦軸は所得の増加割合を示しています。期間は1988年から2008年までとなっています。

つまり、この期間において、グローバルレベルにおける中間層(図の真ん中、その多くが中国などのアジアに住む人々)は所得が大きく伸びており、グローバルレベルで見ればやや富んでいる層(上位1%を除き、図の右側の方に位置付けられている人々)、つまり先進国の中流や下流の家庭は軒並み所得が伸びていないことが分かります。最後に、グローバルで最も裕福な1%の層(図の右端)は所得が大きく伸びていることを現しています。

これはセンセーショナルな発見であり、グローバルで見ると、先進国の中下流家庭は割を喰っている一方で、グローバルの中間層(アジアなど)の所得が大きく伸びたことで、世界全体では不平等は解消されつつあるということです。

グローバルでこのような動きになったのは、安価な工業生産が中国を始めとしたアジアで行われ、アメリカやイギリスや日本の中下流層が担っていた仕事がアジアに流れていったからです。そして、先進国で担う仕事はよりスキル偏重型となり、CEOなどのトップ1%が莫大な金を稼ぐようになったということです。このエレファントカーブは、そうしたことをよく表しています。

国内の不平等は拡大と縮小を繰り返している

続いて、各国内に話が移ります。

著者は、国内の不平等、つまりは所得の格差というものは、大きくなったり小さくなったりを繰り返すと説いているところも新しい点です。

所得の格差はジニ係数といわれますが、それが波打つように、時代とともに大きくなったり小さくなったりすることを著者は発見しました。これをクズネッツ波形と呼びます。

クズネッツ波形

所得というのは、国内の平均所得が増えていくと、最下層に必要最低限は割り当てられつつも、国全体で増えた所得分は富裕層が持っていってしまう傾向があり、次第に格差が広がっていく傾向があります。

しかし、こうした不平等というのは、歴史を振り返ると、福祉制度の広がりや、教育水準の向上といった良性の力で解消されていくこともあれば、戦争や疫病で解消されていくこともあります。

とりわけ、戦争という力が大きく、たとえば第一次世界大戦の直前までは、各国において国内の所得格差は広がり続けていましたが、その結果、所得の格差が増えて国内の消費が落ち込み、富裕層が海外への投資を拡張していく傾向となり、他地域への侵略という流れが引き起こりました。

また、格差で下に押しやられた層が反乱し、ポピュリズムや移民排斥の流れとなり、民主主義が脅かされ、戦争(内戦を含む)になっていくことが考えられます。そしてそのような戦争では、基本、金持ちの資産を没収して戦費が賄われ、最低限を残して国民の所得は下降するため、必然的に不平等は解消されていくことになります。

格差を解消することは、世界平和の第一歩

この本は将来について、グローバルでの不平等は解消傾向に進んでいくと予想しています。これは良いことです。

しかしながら、各国内を見てみると、国民同士の格差が進む国もあれば、格差が解消していく国もあるだろうとしています。とりわけ中国は格差が解消し、アメリカは格差が広がっていくだろうとしています。

2016年に発行されたこの本は、絶妙なタイミングでもありました。2016年のアメリカでは、トランプ大統領が誕生したからです。

私はこの本を読み、歴史からの学びを率直に受け止め、素直に懸念を抱いたのは、アメリカで格差が広がっていくことは、先程あったようにポピュリズムが台頭し、その先に世界レベルでの戦争という可能性が見えてしまうのではないかという点です。

2020年の現在、大統領選挙にてバイデンが勝利したことで、一次的な不安は収まりましたが、この後、アメリカでの格差が解消していくのかが注目すべきポイントです。

こちらをご覧ください。

この表は、世界の先進国では中間層が減り、格差が広がっていることを表しています。

世界レベルでの平和を保つためには、特に影響力の強い国において、中間層の人数を多くして多くの人々が物質的に似たような状況を共有し、左右両方の過激思想を避ける必要があるのではないかと思っています。