【書評】WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か【ノーベル賞受賞者が送る生命の奇跡】

この本は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースが「生命とは何か?」という大いなる謎に迫った一般向けの本です。

ノーベル賞受賞者でありながら、これが最初の一般向けの本という点は驚きですが、コロナ禍において、人間が科学的に判断していくことの必要性から、この本を執筆してくれました。

生命とは、とか言われてもわからないよ。

身近な話でもないし。

そうでもないのです。

この本では、生命が繁栄する上で最も重要な仕組みを教えてくれます。それは同時に、わたしたち人間の基本的な仕組みを理解することを意味するからです。

ポール・ナースがノーベル賞を取った業績

ポール・ナースは、細胞周期という細胞が分裂する仕組みを解明したことでノーベル賞を受賞しました。

一見、あまりすごいことのように感じないかもしれませんが、そうではないのです。

彼は、分裂酵母を用いて、cdc2と名づけた遺伝子を見出し、この遺伝子がタンパク質キナーゼという酵素を作り、それが細胞周期を進行させることを発見しました。

35億年の歴史の中でたった一回だけ起きた生命の誕生という奇跡を起点として、そこから細胞周期によって地球上の生命すべてが増殖しているという事実を考えると、ここまで生命が増殖した仕組みそのものを解明した業績は、非常に大きなものだということがわかるでしょう。

細胞とは何か

細胞とは、生命の基本単位です。

17世紀に顕微鏡が発明されたことで、1665年に初めて細胞は発見されました。

人体には60兆個の細胞があり、小さいものは直径が0.006mmほどですが、一番大きいものは骨格筋細胞で長さが10cmもあります。

ちなみに、人体ではありませんが、卵の黄身はそれだけでたった1つの細胞です。

このように細胞は多様ですが、どの細胞も増殖の仕方は同じです。一つの細胞が二つに分裂することで増殖していくのです。

なお、細胞に機能不全が生じると、それが原因で病気が引き起こされます。このように、細胞は生命を支える源であるということが分かります。

遺伝子とは何か

すべての細胞は染色体をもっており、そこには遺伝子が含まれています。

遺伝子はデオキシリボ核酸(DNA)で構成されており、人間のDNAを全てつなぎ合わせると、長さはなんと地球と太陽を65回往復するほどのものになります。

DNAには、タンパク質の合成に使用されるコード(設計図)が含まれます。

その内容をみると、わたしたち人間のDNAはほぼ同じであり、それは先史時代の人々ともほぼ変わりません。人間同士のDNAの違いは全体の1%にも満たないのです。

自然淘汰によって生命は進化していく

遺伝子が変化していくことで、生命は進化していきます。

遺伝子は突然変異によって、特定の環境に優位な遺伝子に変化します。それによって、優位でない遺伝子を持つ生命が自然と淘汰されていくという仕組みです。

生命が持つ自然淘汰の機能は、3つの性質から成り立っています。

①繁殖する能力、②遺伝システム、③遺伝システムが変異する能力です。

2022年現在、猛威を振るっているコロナウィルスは、遺伝子の変異によって新たな株が生まれています。まさに、生命として進化しているということです。

がんについても、細胞の突然変異によって生じたものであり、生命の進化は、人間の繁栄を妨害するものでもあるということです。

遺伝子は組み替えることができるようになった

一方で、人間は、技術を発展させることで、遺伝子の組み替えが可能になりました。

それによって、糖尿病を管理できるようになったり、品種改良によってよく育つ作物を作ったり、がんを不活性化する薬を作ったりしています。

生命の進化を人が自らの力で作り出すことができるのです。まさに神の力を手に入れたといっても、過言ではないのかもしれません。

また、近年、科学者は、幹細胞を分離、培養し、特定の種類の細胞にする方法を編み出しました。

今では、患者の皮膚から完全に成熟した細胞を採り、発達の時計を巻き戻して、幹細胞の状態に戻るように処理することが可能になっています。これは、日本の山中伸弥教授が発見した1PS細胞です。

科学の力を手に入れた人間は、同じ仕組みによって進化していく生命と共存しながら、果たしてどのようになっていくのでしょうか。とても考えさせられる一冊です。