【書評】ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった

最近では、ビジネスマンであれば、どこにいってもSDGsやサステナビリティ、ESG投資といったワードを聞くと思います。

そうなんだよね~

でもみんなが何を言っているのかさっぱりわからないよ。

そういう人は多いと思います。

しかし、今後の時代の流れを見て行くと、このサステナビリティという潮流に乗れないとビジネスマンとしてかなりキツイ状況です。

世界経済フォーラムといった国際的なメインストリームで、今一番の話題はといえば、コロナ感染症対策と並び、もっとも注目を集めているのが気候変動です。

気候変動は、SDGsやサステナビリティ、ESG投資といった文脈における1つの要素ですから、このあたりを勉強しておけば、いま世界中で注目を集めている事柄を理解することができます。

この本は、夫馬賢治さんというサステナビリティの第一線で活躍している方の本で、 SDGsやサステナビリティ、ESG投資について、とても分かりやすく解説してくれている内容となっています。では、中身にいきましょう。

そもそも、ESG思考とは何か

ESG思考の前に、ESG投資のほうがよく聞くワードですので、まずはこちらから解説します。

ESG投資とは、簡単にいえば、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮している企業に投資することです。逆に言えば、環境破壊につながる活動をしていたり、人権を無視した労働をさせている企業には、投資をしないということです。

当たり前のように聞こえますが、資本主義においては、株主の利益が一番の価値観でしたから、たとえば石炭などの化石燃料を採掘している企業にもこれまでは平気で投資していたのです。

また、人権についても投資家からは見えづらく、企業が人々をどのような環境で働かせているのかといったところまで確認しようとしている投資家はほとんどいなかったのです。

気候変動や人権の問題が叫ばれる中、そうした問題を助長している企業には、投資しないようにしようというのがESG投資です。

そして、この本で言っているESG思考とは、投資活動だけでなく、これまでの株主利益だけを追っていくような考え方ではなく、今後の世界で戦っていくためには、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した経済活動をしていくような考え方でなければならないということです。

この本でキモとなる論旨

なんといっても、以下のグラフだと思います。

これまで、資本主義とは、自らの利益を最大化するという利己的な欲求をエンジンとして経済を発展する④オールド資本主義が主体でした。ここから、環境や社内に配慮した活動を行うことで利益を最大化していく①ニュー資本主義に変わっていくという論旨です。

これまでにも、オールド資本主義が行ってきた環境破壊に対して、環境を保護しないとダメではないかといった声は幾度となくあがっていました。それが③脱資本主義の考え方であり、NGOなどの環境活動家が中心に行ってきた主張です。

しかし、脱資本主義の主張では、オールド資本主義の人々を変えることができませんでした。その理由は、環境や社会に配慮した活動をしていると利益が減ってしまうという考え方が根底にあったからです。

つまり、利益にならないのであれば、資本主義である限り、オールド資本主義で働いている多くの人々の意識を変えることはできなかったということです。

しかし、これからは、環境や社会に配慮することで利益が増えていくという考え方が出てきました。それがニュー資本主義です。ニュー資本主義であれば、多くの人々の意識を変えることができる、そして実際に変わってきているというのが本書の大きな主張です。

なぜ、環境・社会に配慮することが利益につながるのか

オールド資本主義からニュー資本主義に代わってきた根拠として、一番の大きな点は、2018年までに全世界の資産の三分の一がESG投資で運用されるまでになったことです。

つまり、オールド資本主義の権化であったウォール・ストリートは、もはやニュー資本主義の考え方にほぼ変わってきているということです。

なぜニュー資本主義の要であるESG投資がここまで大きくなったのでしょうか。その最大のキッカケは、2009年に起きたリーマンショックです。

ESG投資自体は、古いものではなく、1990年頃からはじまっており、2006年からPRI(責任投資原則:投資家に対して、企業の分析や評価を行う上で長期的な視点を持ち、ESG情報を考慮した投資行動をとることを求めるもの)は発足していました。ただ、大きな潮流にまでは、なっていなかったのが事実です。

そこに、リーマンショックという未曾有の金融危機が到来しました。そこで、非常に大きな痛い目をみたのが投資家です。リスクを見極めることができていなかった投資家は、この他にも自分たちが把握できていないリスクがあるのではないかと考えるようになります。

そこで、多くの投資家が注目したのが、環境や社会の領域です。ここに大きなリスクがあることに気付いたのです。

気候変動に対処しなければ、災害が増えて人間が長期的に生きていくことができなくなる、生物多様性に配慮しなければ、食物連鎖が崩れて人間の食料供給に大きな影響を与えることになる、そうした問題に、ようやく気付いたということです。

環境や社会に悪影響を及ぼす企業に投資をすることは、その活動を助長することになります。長期的なリスクを回避するためには、そうした企業に投資せず、環境や社会に配慮している企業に投資する必要がある、そのほうが自分たちにとっても利益になるということに気づいたのです。

つまり、オールド資本主義からニュー資本主義に変わってきた潮流は、オールド資本主義の本質である投資家の利益を最大化したいという欲求がもたらしたものだったということです。

日本は、サステナビリティにおいて非常に遅れた考え方をもっている

欧米を中心として、2000年代からESG投資に大きな舵が切られていく中、その間の日本といえば、環境や社会に配慮することは利益に貢献しないがイメージアップのために行うCRS活動であるという独自の価値観が育っていってしまいます。

欧米が長期的な視点の重要性を理解し、短期的な利益志向である四半期決算を廃止したり減らしていく中、日本では2006年に四半期決算が義務化されるなど、真逆な動きにもなっていました。

2010年以降では、ESGに関する情報開示が欧米で義務化されていく中で、2020年時点で日本ではESGの情報開示がほとんど進んでいないという状況です。

ただし、その一方で、かすかな望みもありました。

日本の国民年金と厚生年金の合計約170兆円の資産運用をすべて担い、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年にPRIに参画し、2017年になってからは、ESGインデックスを3本採用しました。日本株で運用している30兆円のうち約1兆円をESG投資にしたのです。

これは、SDGsが採択されてから約1年半後のことでしたが、日本がESG投資を開始していく意味でも重要な出来事となりました。

ESG投資の広がりと新たなビジネスチャンス

IPCCが第四次評価報告書を発表し、人間の活動が気候変動に大きく影響を与えていくことが確実になってくると、ESG投資への機運は世界全体で高まっていきます。

そうした中、世界銀行グループでは、二酸化炭素を多く排出している化石燃料の採掘企業に融資することをやめるという判断を行いました。そこに世界の投資家が追随していき、やがて大手の石炭採掘企業が倒産するということが発生します。化石燃料に継続して投資していた投資家は、大きな損失を被ることになりました。

また、アメリカでは、NGOが大手IT企業のサーバー等による電気消費量を試算し、それらが気候変動に大きな影響を与えていることを糾弾しました。iPhoneでおなじみのアップルは、当初反論していたものの、最終的には再生可能エネルギーへの切り替えを宣言させられることになりました。環境へ配慮するということは、アップルなどの大企業さえ動かしていくことになっているのです。

2017年のダボス会議では、世界の経済活動の約60%を占める「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福社」の4分野で、SDGsで掲げられた各目標を追求すると、2030年までに年間12兆ドル(1320兆円)の経済成長機会があり、新たに最大3,8億人の雇用が創出されるというレポートが発表されました。

サステナビリティへの機運は高まるだけでなく、そこにビジネスチャンスも生まれてくるということが分かると思います。

2020年時点での世界の資産は、預貯金、土地、株式など全て合わせて279兆ドルとなっています。そのうちの三分の一は年金基金と保険会社が運用していますから、私たち普通の民間人は、世界の最大の投資家でもあるわけです。今後の世界では、私たち一人ひとりが責任をもってESG思考を身につけていくことが、人にとっても地球にとっても重要なのです。