【書評】臆病者のための億万長者入門【不都合な真実から学ぶ資産運用:株式以外はやめたほうがいい】

この本は、金融リテラシーが低めの人でも自分に合ったお金の貯め方が学べる良書です。

正直にいって、お金に関するあらゆる本を読んできましたが、この本は一番ためになるお金の本だと思います。

なぜなら、金融の専門家である著者が、一般人として普通に生きていると「誰からも教えてもらえない不都合な真実」を余すところなく丁寧に解説してくれているからです。

この世界には、誰からも教えてもらえない不都合な真実というものがあります。

なぜなら、一般人というのは基本的にカモだからです。絶対に儲かるといった都合のよい投資話は、あなたのところには決してこないと著者は断言します。

この本は、そんなカモにならないように、色々なことを教えてくれます。では、行きましょう。

億万長者は身近にいる

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まずは、この本のタイトルにあるように億万長者とは、どんなものかという点です。

クレディスイスの2013年の調査によると、純資産(居住用不動産を含む)を100万ドル以上保有している富裕層の数は、一位のアメリカでは人口の4.2%、二位の日本では同2.1%、三位のフランスでは同3.4%となっています。

ミリオネアが世帯主だとすると、日本では20世帯に1世帯がミリオネア世帯ということになります。

つまり、億万長者は、私たちの隣に住んでいるということです。

有名な本に「となりの億万長者」というものがあります。

この本を執筆したトマス・スタンリーによると、典型的な億万長者というのは、高級マンションに高級スポーツカーの所持者というものではなく、ありふれた下町でふつうの車に乗っているということを発見しました。

つまり、お金持ちになりたかったら、収入を増やすことだけではなく、いかに支出を減らして、生活レベルを低めに保つかが重要ということです。

株式以外のあらゆる投資は、素人が手を出すべきではない

まず、一番やめておいた方がいいものは、不動産投資です。

不動産投資というのは、株式投資とは情報の透明性が大きく異なり、圧倒的なインサイダーマーケットだということです。

つまり、不動産会社やプロの不動産投資家といったインサイダー情報を掴んだものだけが勝てるようになっているため、素人が不動産会社に良い物件ですと話を持ち込まれても、実際は自社やプロが見向きもしていない物件しか素人には紹介してもらえないということです。

次に、貯蓄型保険についてです。こちらは、資産運用としてほとんど意味がないというお話です。

率直に言ってしまうと、保険会社に無駄な経費(保険会社の運用経費)を支払っているにもかかわらず、実際の内容は銀行の定期預金と変わらないため、儲かるのは保険会社ばかりで、手数料等の経費を払った分だけ損をしているということです。

保険が厄介なのは、保険料の総合計というのはバカ高いにも関わらず、公共料金のように自動引き落としされてしまう点です。どうしても支払った気分になりづらく、損をしていることに気づきづらいのです。

株式投資はETF(上場投資信託)で保守的に

株価とは、一株あたりの将来の利益の総額を現在価値にしたものです。

そして、株式投資における適正なリスクプレミアムは5%程度なので、ゼロ金利であれば5%以上の益回り(PER20倍以下)なら株価は割安といえます。なお、ゼロ金利でない場合は、インフレの分だけ益回りが高くなければいけません。

もう1つ重要な指標として、資本からどれだけ利益を生み出しているかというROEやROAというものがあります。

ちなみに、日本企業はアメリカ企業と比較するとROEやROAが低くなっています。この理由は、日本は欧米のように整理解雇ができないことが大きな要因となっています(その分、日本はアメリカよりも失業率が低い)。

つまり、基本的には日本企業よりアメリカ企業に投資したほうがよいということになります。

そして、投資をするなら個別銘柄であったりアクティブファンドではなく、ETFをドルコスト平均法で買えばよいです。

株式投資において、アクティブファンドの平均的な投資成績は、常にパッシブファンドを下回っており、さらには、S&P500などのETFのほうがアクティブファンドよりも成績が良いというのが近年明らかになってきたためです。

また、海外の投資のときに気を付けるべき点として為替があります。これを回避するためにドルコスト平均法を使ったほうがよいということです。

厚生年金は、現役世代にとって損

まず、年金は、大量の国債発行で集めたお金が原資となっています。そして国債は借金ですから、貸し手と借り手がいます。

貸し手は、現役世代の日本人です。なぜなら、その国債のほとんどは、日本の金融機関が保有していますが、その金融機関のお金はそもそも日本人の預金だからです。

では借り手は誰でしょうか。国でしょうか。国は結局、日本人からの徴税でしか借金を払うことはできません。ではその徴税をされるのは誰でしょうか。その答えは、将来世代の日本人です。

つまり、年金というのは、将来世代への徴税を前提として賄われているということです。

そういうと「自分だって前の世代が利用する年金のために徴税されてきた。年金っていうのは、前に払った分を返してもらっているだけだ」という声も聞こえてきます。確かに理屈ではそうなりますが、実はいま年金をもらっている世代は得しているという事実があります。

特に国民年金は、制度が確立した時代から平均寿命が伸びたことにより、20歳からしっかり国民年金を支払って平均寿命まで生きた場合では、男性で1.4倍、女性で2.1倍の金額が返ってくるような計算になります。とても得な制度です。

そして、厚生年金については、月々の保険料に加えて、会社負担分を加えた総保険料で見てみると、サラリーマンが平均寿命まで生きたとして、50代後半以上であれば特になるという計算になります。

では、50代前半以下だとどうなるかといえば、将来もらえる金額よりも支払った分のほうが多くなり、損をしている計算になります。

厚生年金の保険料は、一般には気づかれないうちに天引きという形で12.4%から16.8%にまで引き上げられてきた上、ボーナスまで取られるようになってしまいました。今後、50代以下のサラリーマンは将来に渡って損をしていくことになるでしょう。

宝くじは還元率の悪いギャンブル

その他にも面白い話として、この本では、宝くじを「愚か者に課せられた税金」と言い切っています。

宝くじというのは、集めたお金のうち、その半分しか当選者に還元する賞金分として使っておらず、残り半分は販売経費を差し引いたうえで地方自治体に分配されているからです。宝くじというのは、還元率を見るととても割に合わないギャンブルということです。

その他には、インフレになると通過が安くなるといった為替についても分かりやすく説明してくれています。

この論理が分かれば、失われた20年で日本がずっと円高だったのは、日本がデフレでアメリカがインフレだったからに他ならないということが理解できます。世界では、モノの値段は一律となるような力が働くため、インフレ率が高い国の通貨は安くなるということです。

私たち個人は、そもそも投資するのに向いていません。なぜなら、得よりも損は三倍も苦痛であるため、その苦痛に耐えきれず、機会を逃してしまうからです。私たちは、心理的にもっとも楽な行動を選んでいるにすぎません。

個人がやる投資は保守的にせよということが、この本からの最良の学びです。