この本は、ビル・ゲイツが学生に無料配布し、名作中の名作として褒めたたえたことで有名です。
著者のハンス・ロスリング先生は、公衆衛生学の権威として、この世での最後の仕事として命を懸けてこの本を執筆されました。
この本では、まず冒頭の13の質問で、私たちがいかに世界の実情を誤解しているかを教えてくれます。
たとえばこちらです。
正解はC「60%」
どうでしたでしょうか。
世界中の1万2000人を対象に行われた13の質問では、正解率の高かった1問を除き、平均正解数は12問中たったの2問だったようです。
私たちは、本当は世界が良い方向に向かっていることも知らないで、相変わらず悲観的な物事の味方をしていることを教えてくれます。
ただ、この本の本質は、ただ「世界って実はけっこう良い方向に向かっているんだよね」ということを伝えたいわけではありません。
わたしたちがいかに事実ではなく本能(思い込み)によって物事を捉えているかを教えてくれようとしているのです。事実をしっかり見つめようということを問いかけてくれています。
わたしたちは、事実ではなく、本能によって物事を誤解している
ハンス先生は、物事を事実ではなく本能(思い込み)によって捉えてしまっている理由を説明してくれます。
たとえば、物事をなんでも二極化して把握しようとする分断本能、なんでも悲劇的なストーリーにしようとするネガティブ本能、なんでも危険なものとして捉えようとする恐怖本能など10の思い込みを解説してくれます。
事実をもとに考えなければ、物事を歪んで捉えてしまうため、正しい解決策を見つけられません。つまり、間違った問いに正しい答えを出してしまうのです。
ハンス先生は、わたしたちの脳はどうしても本能(思い込み)で理解しようとしてしまうため、それを肝に銘じるように言います。そして、いつでもファクトに基づいて考えることの重要性を多彩な事例を使って何度も繰り返し伝えてくれます。
そして、世界の人々の暮らしを収入別に写真で見ることができる「Dollar Street(ドル・ストリート)」を教育に使っていくことを提案してくれています。こちらはとても参考になるサイトですので、一度見てみてください。
事実をもとに考えることの難しさ
私たちは自分が思っている以上に、ファクトベースで物事を捉えることができません。誰かが言ったこと、メディアが言ったことをそのまま鵜呑みにしてしまうことはとても多いです。ニュースや情報番組やSNSで、何度も同じことが繰り返し伝えられてしまえば、誰だってそうなんだと思い込んでしまいます。
メディア側も、悲観的なニュースのほうが視聴率が取れるというインセンティブがあるため、わたしたちの本能に引っ掛かりそうなキーワードで伝えようとしています。そして、報道がファクトから大きく乖離したときにはフェイクニュースとなってしまうのです。
そして、本能(思い込み)によって理解してしまっているのは、一般市民だけではありません。先程の13の質問では、有名大学の教授や、大企業の役員クラス、一国の首相も正答率は高くありませんでした。ファクトベースで理解しないことは、世界中の重要な判断を間違ってしまう危険があるのです。
「ファクトフルネス」を心がける
人というのは、昔から、極端な意見が大好きです。極端な意見には、人々を高揚させ、連帯感を与える力があるからです。
極端な意見というのは、先程のフェイクニュースと同質であり、ファクトを曲解して未来を語ることです。そして、そうした極端な意見に盲目的になった人々は、極端な意見とは思っておらず、それが真実だと思い込んでしまっています。
中庸という言葉があるとおり、極端な意見は避けることが重要です。中庸はファクトフルネスに結びついている概念です。
SNSが急速に広まってポピュリズムが横行する現代では、みんながハンス先生の最後の言葉を噛みしめて、よりよい世界を作るためにファクトフルネスを実践できればいいなと思います。