公共機関の手続きといわれて、まず何を思い浮かぶでしょうか。
パスポートの更新や引越しといった役所への届出や手続きなどで、様々な機関に紙書類を提出しなければならず、デジタル時代といわれる現代において、民間と比べて遅れてて面倒な印象があると思います。
世界的にみても、日本の行政サービスはオンライン化が遅れています。たとえば、2018年のOECDの調査では、調査した30か国の中で、日本は断トツの最下位でした。
電子国家として名高いエストニアのようにすべての手続きを電子化している国もありますが、対面を重視しすぎた日本は、ハンコ文化に象徴されるように手作業が中心となっていました。
今日は、なぜ日本では行政の電子化が進まないのかについて、お話していきたいと思います。
行政手続きのオンライン化は道半ば
実は、こうした行政の手続きをオンラインで実現するというのは、けっこう前から取り組まれています。
代表的なものとして、2006年4月から運用されているe-Gov(イーガブ)電子申請システムがあります。このシステムは、総務省管轄に限らず、数多ある役所への届出や手続きのすべてをオンラインで実施できるようにするといった目的で作られました。e-Govの他にも、登記が行える「登記ねっと」や納税が行える「e-Tax」など省庁ごとにシステムが構築されています。
内閣官房が2019年に調査した結果(「行政手続等の棚卸結果等の概要」より)を見てみると、国全体の手続きのうち、オンライン化できているものは種類数ベースで17%、件数ベースで87%です。ただし、実際に利用されているのは件数ベースで54%に留まり、道半ばという印象を与えます。
利用率が54%になってしまっている理由としては、このシステムを使わなくても紙の書類に書いて提出すれば申請できてしまう行政手続きがまだ多くあること、e-Govは利用にあたって電子認証を取得しないといけないこと、そもそもシステムが全般的に使いづらいことなどがよく挙げられます。
2016年頃から行政手続きのオンライン化に本腰を入れ始める
政府は、2016年に官民データ基本法、2019年にデジタル手続法を策定し、その実行計画としてデジタル・ガバメント実行計画が2018年に初版、2019年に改定版が出るなど、行政手続きのオンライン化にようやく本腰を入れている状況です。
そこに、新型コロナウィルス感染という突然の出来事が生じました。数多くの行政手続きが未だ利用に足るレベルでオンライン化できていないことが浮き彫りとなり、政府のデジタル化は喫緊の課題となって、菅政権の政策でデジタル庁設立といった話につながっていきます。今のところデジタル庁は2021年9月に設立される予定です。
なお、デジタル庁が成功するか否かについては、行政の縦割りを打破できるかどうかがカギだとよく言われます。先ほど触れたように、省庁ごとの個別システムが山ほどあるため、これらが個別最適に作られていることによって、省庁横断的な手続きが手間になっているという論調です。
しかし私は、本当に省庁縦割りが真の問題であるかは疑問があります。
いまだに電子化が進まない理由は、紙申請の需要と使いづらさ
私は、行政のデジタル化が進まない理由としては、省庁縦割りは本質的な問題だと思っていません。
なぜなら、省庁横断的な手続きというのは、引っ越しといったライフイベントでは確かにあるかもしれませんが、基本的にはそこまで多くないからです。もちろん、法人情報などの共通的なデータは共有したほうがよいですが、そのあたりはGビズIDの普及により一定進んでいますし、省庁ごとにシステムが最適化されていても、別にそれが問題ではないためです。
むしろ問題は、先程も挙げたように、行政手続きにおいて①未だに紙申請を受容していること、②システム自体が使いづらいこと(電子認証の取得、ダメなUI)が本質的な問題だと思っています。
では、なぜ、①未だに紙申請を受容しているのかといえば、それは役人の意思決定が高齢者に左右されているからです。平たくいえば、デジタルになれない高齢者を置いてけぼりにしないことが優先され、中途半端なシステム開発に終始しているということです。これは、役人の意思決定者自体が50代後半から60代であることも大きなポイントだと思います。
加えて、②システム自体が使いづらいという点も、こちらの記事に記載したことと本質的には同じで、行政の中にデジタルが分かる人材が少なく、業者に丸投げしていることが問題です。こちらも、役人の意思決定者自体が50代後半から60代であるため、デジタルとして何が最適なのかを判断できず、業者の言いなりになったり、逆に業者の良い提案を採用しなかったりしているわけです。
行政におけるデジタルの意思決定は、40代に委譲すべき
では、行政の手続きのオンライン化、利用率向上を図るにはどうすればよいでしょうか。
私の答えは、少なくともデジタルに関連する事案については、役人の意思決定者を40代くらいにバトンタッチしてもらうということです。
先程述べたように、デジタル化にあたっての問題(①未だに紙申請を受容していること、②システム自体が使いづらいこと)は、どちらも役人の意思決定者自体が50代後半から60代であることに起因していると見ています。
ですので、日本の行政機関において、ことデジタルに関しては、意思決定を40代の脂ののった人材に委譲し、自由にやってもらうことが重要だと思っています。いま注目を集めている台湾のデジタル大臣であるオードリー・タン氏も1981年生まれてあり、まさにその年代です。
これからデジタル庁ができますが、省庁縦割り打破にばかり注目しているようでは、目立った改革はできないのではと思っています。
いっぱい紙に書類を書いて、長い待ち時間・・・とかかな