作曲がいかに難しいか
良い曲を聴くと頭の中で景色が広がる。爽やかな曲を聞けば、広い草原の中で心地いい風が吹き、木々や草花が揺れる光景が見えてくる。悲しい曲を聞けば、夕暮れの海辺で独りぼっちになって、何かを見送る光景が浮かぶ。これは、歌と歌詞がある現代の曲だから起きることではなくて、歌が入っていないクラシック音楽を聴いても同じように景色が広がるのだ。
最近はめっきりやらなくなったものの、私は中学生のころから自分の音楽を創作してきた。音楽を創作するといっても何のことやらという感じかもしれないが、つまりはオリジナル曲を作ってきたということだ。中学二年の時に当時流行っていたポップスバンドに憧れてからというもの、友人と何度かバンドを組み、ギターを弾きながら作曲に勤しんできた。音楽を創作には歌詞、メロディー、編曲というおおまかな分類があるのだが、私はその中でも作曲こそが創作の醍醐味だと思っている。
音楽を創作するときは、歌詞づくりには作詞家、メロディーづくりには作曲家、そしてドラムやベースやその他の周辺の音を作りあげるには編曲者と呼ばれる専門家がいる。バンドメンバーでオリジナル曲を作るときには、大抵の場合は作詞と作曲は誰か一人がやって、編曲は全員で行うということが多いだろう。私のバンドもそのようにしていた。
作詞家に怒られそうだが、歌詞づくりというのは、はっきり言って誰でも出来ると断言できる。まったく音楽を勉強していない素人でも、メロディーに合わせて好きなように言葉を並べれば一応の歌詞は出来上がってしまうからだ。音楽を創作することに熱狂してきた自分にしてみれば、そこに尊敬の念はない。編曲については、作曲以上に幅広い知識が必要になる(ドラムやベースの知識も必要)が、やはりメロディーがあってこその編曲となる。その点、作曲には知識と0から生み出すセンスが必要になるため、1つレベルの違う作業だと言える。
メロディーを作るという作業は、相応の知識に加えて、閃きに近いアイデアが必要となる。たとえば、鼻歌程度にメロディーが浮かんだとしても、それを1つの曲としてまとめるのは難しい。コード進行を知っている必要があるし、鼻歌に対してどのコードが適切なのかを判断する知識も必要となってくる。コードをひとつ変えてしまえば、曲の雰囲気がガラッと変わってしまう(物悲しい雰囲気になったり、明るい雰囲気になったり、何やら哀愁漂う感じにすることもできる)。コード進行を伴わない鼻歌程度のメロディーを作ったとしても、それは作曲とは言えないのだ。
また、素人の場合、鼻歌といってもどこかで聞いたメロディーになってしまうことが多いだろう。そうではなくて、全く聞いたことがないメロディーを自分の脳みそからひねり出すことが作曲である。単にギターや鍵盤を叩いて出てきたメロディーに感動の要素はない。脳内から人が感動を覚える(少なくとも聞き心地がよいと感じる)メロディーを生み出すということは、とてもセンスが必要となるのである。
日本と海外の音楽の違い
私は作曲する過程において、これまでに色々な曲に影響を受けてきた。初期は日本のメロディーポップスバンドたち、中期は海外のポップス、ロック、後期はJazzといった具合に。しかし、作曲という観点だけでみると、日本のポップスのメロディーの複雑性は段違いである。日本の音楽というのは、序章のAメロ、展開のBメモ、そして盛り上がりのサビ(Cメロ)から構成されることが一般的だ。Aメロ、Bメロ、サビの組み合わせを二回繰り返したあと、これまでとちょっと雰囲気が異なるメロディーとしてDメロが登場したりして、最後にもう一度サビにくる。最後のサビでは、半音か全音分の転調を行って盛り上げたり、一小節ごとに音を高くしていくようなメロディーにしたり(サザンの曲に多い)、いきなり低いところから高いところに飛ぶといった創意工夫が多い。
一方で、海外の音楽はAメロとサビの構成で、メロディー自体はとても単純なものがほとんどだ。海外の音楽は、メロディーというよりリズムや編曲で魅了するものが多く、曲のノリなどを重要視しているからである。日本の曲のようにメロディーラインがどんどん変わってしまうとリズムが変わりすぎてノリづらいため、単調なメロディーラインが好まれる。その代わり、身体を揺らしてノリやすいし、野外のライブなどでは盛り上がりやすい曲が生まれるのだ。私も海外のアーティストのライブに何度か足を運んでいるが、盛り上がり方がすごい(特に、大好きなレッド・ホット・チリペッパーズのライブは良かった)と思う。
最近では、アメリカの音楽シーンで有名になりたいといった日本人アーティストも増えてきている。そうした彼らは、日本の音楽シーンでよく見かけるメロディーラインを使わずに、当然ながらアメリカで受けるようなリズム、グルーブを重視した曲を作っている。それはそれでいいんだろうが、私としては日本らしいメロディーラインで挑み、その素晴らしさをアメリカをはじめとした海外に見せつけてほしいと思ったりする。私は、そのくらい日本らしいメロディーの素晴らしさに魅了されている。