ブロックチェーンについて興味はあるけど、なんだか良くわからないという人は、この本さえ読めば大丈夫でしょう。
ブロックチェーンが大きな話題となる前からブロックチェーンの実用化に取り組んでいる著者が、テクノロジに明るくない人でも読みやすいように丁寧に仕上げてくれた本だと思います。
わたしがこの本に魅力を感じているのは、冒頭に「ブロックチェーンの本質は、技術にはありません。その思想にあります。」と書かれているとおり、ブロックチェーンの技術的側面にフォーカスしているのではなく、ポスト資本主義の根源的な考え方、つまり非中央集権化を成し遂げるための基盤という観点から、このブロックチェーンを解説してくれている点です。
前半は、ブロックチェーンと仮想通貨を切り分けた上で、丁寧に初歩的な部分から解説してくれています。そして、この本は第三章「普及を阻むもの」以降で踏み込んだ議論をしていますので、そこからが面白いです。
ブロックチェーンはまだビジネスとして成り立っていない。ブロックチェーンの不得手を理解しよう
ブロックチェーンは、2017年にビットコインバブルが起きてから、少しずつ注目を集め、最近ではエマージングテックに興味がある人であれば、企業がブロックチェーンを使った実証実験を行ったというようなニュースも見ることでしょう。
しかしながら、ブロックチェーンの実用化に向けては、まだ大きなハードルがあるのが実態です。企業が行って話題になった実証実験についても、ほとんどがPoCといわれる概念実証で、PoCというのは簡単にいえば「何だか良くわからないけど、本当にこれがビジネスに使えるのか低価格でお試ししてみる」といった程度のことしか行われていません。
その理由をこの本では「なぜわざわざブロックチェーンを使わなければならないのか」にどの企業も答えられていないからに他ならないと説きます。ブロックチェーンを使った色々なアイデアを聞くことは多い一方、それらのアイデア自体、既存のシステムでも実現可能なものであったり、既存の法律を無視したものであるため、ブロックチェーンを使う理由になっていないと著者はいいます。
加えて、ブロックチェーンの不向きな点の理解不足にもあるといいます。ブロックチェーンでは、大きなデータを扱うことは苦手です。ビットコインを例に挙げれば、短い文字列しか扱っていないにもかかわらず、10分あたり4200件を超えるトランザクションが生じると遅延してしまうくらいなのです。
そして、過去のある時点の情報を見たいといった場合にも不向きです。ブロックチェーンは過去から今に至るまでの変化のみを記録しているため、時点の情報を取ろうと思えば、フルノードにアクセスして遡っていく作業が必要だからです。(いくつかのサービスではこの点を解消していますが、ブロックチェーンの根本的な特性であることは変わりません)
それでもブロックチェーンに魅せられる「非中央集権の世界に必要な基盤」としての利点
これまで見てきたように、ブロックチェーンにも不得意な領域があり、魔法の道具ではないということを理解する必要があると著者は説きます。
それでは、あらためてブロックチェーンの利点は何なのでしょうか。この本ではそれを「信用」と定義しています。ブロックチェーンは改ざんが難しいので、堅牢性が高いということです。簡単にまとめると以下ということです。
しかし、「信用」だけではビジネスとしての訴求力はいまいちです。なんといっても中央集権型の基盤とは逆方向の技術ですから、既得権益側にとっては都合の悪い技術であり、もっと抜本的な魅力で訴求できなければなりません。
そこで出てくるのが、トークンです。トークンとは、ブロックチェーンのスマートコントラクト(中央に管理者が不在なので、契約の履行はブロックチェーンが自動で行う仕組みのこと)の技術によって、参加者の間でやり取りされる価値を指しています。筆者はこのトークンにより、インターネットの中のコミュニティにエコノミーを加えることができると言います。
コミュニティにとってエコノミーの要素は必須条件ではありませんが、エコノミーが絡んでいないコミュニティというのは、ただの集まりにしかならず、地理的な制約のないインターネットにおいては、エコノミーなしにコミュニティの繋がりを保つことが難しいとされています。
そのため、これまでもインターネットの中のコミュニティにおいてエコノミーの要素は追加されてきましたが、どうしても既存の社会システムを利用する必要がありました。つまり、インターネットのコミュニティにおいて、何かの価値を交換(モノを買って支払いなど)するときには、やはり既存の銀行やカードの決済を必要としていたということです。
しかし、ブロックチェーンのスマートコントラクトとトークンの概念を用いれば、既存の社会システムを使わずとも、インターネットのコミュニティにエコノミーの要素を組み込み、一つの経済空間として成り立たせることが可能となります。そして、既にその動きは始まっています。それが先日、Facebookから発表されたLibraだったりするのですね。
トークンエコノミーの実現
この本は、その他に自律分散型組織(DAO)や、著者が実施したブロックチェーンの実用化事例についても言及がありますので、そのあたりに興味がある方は、本を買って読んでみてください。
私としては、著者が最後に言及していた通り、短期的にはブロックチェーンはまだ儲からないものの、資本主義のペインポイントをしっかり定義して、そこに訴求できるサービスを展開できれば変革を起こせる技術だと思っています。
その点でいえば、先日ご紹介したこちらの記事のとおり、Brave Browserは広告におけるプライバシーと中間業者搾取というペインポイントをブロックチェーンで解決しており、広告業界における1つの変革を起こしうるサービスです。
著者は、トークンエコノミーについて、現在はお金に換えることができていない基本的な価値をトークンとして定義していますが、私としては、ここは現実的な路線で考えた場合、まずはお金に紐づけないと世の中に馴染まないかなと思っています。
そういう意味では、Libraは新しいデジタル通貨を目指しており、トークンエコノミーの分かりやすい例です。たとえば、Libraのコンソーシアムに属する企業では、給料がLibraで支払われ、サービスをLibraで受け付けてくれるという経済圏が成り立った場合、Libraで受け取れるサービスが充実すればするほど、その経済圏は発展するということです。そうすれば、皆がその経済圏に入りたがるようになりますので、1つの国家のような大きな秩序がその経済圏で生まれてくるということになります。加えて、Libraが通貨として安定すれば、通貨としての価値が対ドルで上がっていくことになりますので、その経済圏の中にいる人たちが潤っていくということになります。
こうした良い循環がトークンエコノミーの目指すところであり、その基盤はやはりブロックチェーンということになるわけで、短期的にはただのバズワードであっても、将来的にはとんでもなく大きな可能性を秘めている技術だと思います。