【書評】「孫子」【戦わずして勝つ。敵を欺く。日本人に最も必要な戦略的合理性を説いた名著】

「孫子」とは、中国が誇る古典の兵法書です。

作者は、孫武という春秋時代の呉の武将で、紀元前500年ごろ、三国志やキングダムよりも前の時代の人物です。

「孫子」の愛読家としては、三国志の曹操や、ナポレオン、毛沢東など錚々たる顔ぶれがおり、さらには「孫子」が書かれてから2500年以上経った現代でも、多くの愛読家を今なお生んでいるという伝説級の書物です。

なぜこれだけの魅力があるのでしょうか。それは、「孫子」というのはただの兵法書ではなく、戦略における基本的原則を語っているため、現代でも生き抜く上で重要な示唆を得られるからです。

特に、合理性よりも組織内の融和と調和が重視する傾向が強く、その結果として太平洋戦争で惨敗した日本人にとっては、この「孫子」から学ぶべきところが多くあるでしょう。

歴史とは、勝者が語った物語を紡いできたものです。敗者にとっては語れる事実などなかったことを考えると、勝つことの重要性がとても分かります。

①戦わずして勝つ

「戦わずして勝つ」。これは孫武(以降は、尊称である孫子といいます)の本質が多く詰まっている言葉です。

「孫子」の第一章の計篇は「兵とは国の大事なり」という言葉から始まり、まず最初に、戦いとは多くの労力がかかるものであって、負けてしまっては取り返しがつかない上、たとえ勝ったとしても、こちらも大損害を被る場合が多いという戒めから始まります。

そこで、孫子は、できる限り、「戦わずして勝つ」ことが重要だと説きます。つまり、正面衝突となるような戦いは可能な限り避けて、戦わずに相手を屈服させることを一番の良策として捉えるのです。

②敵を欺く

「兵とは詭道なり」。これは、戦いにおいて、いかに相手を騙せるかが鍵だということを説いています。

戦いとは、色々なことが複雑に絡まっているように見えても、最終的には、総合戦力が高い方が勝ちます。つまり、相手に自分の総合戦力を知られないようにすること、そして相手の総合戦力を自分が把握することが重要だということです。

有名な「彼れを知り己れを知らば、百戦して殆うからず」という言葉は、ここから来ています。

自分は、敵に見破られないようにしながらも防御をしっかり整えて着実に戦力を上げるとともに、相手にはそれが伝わらないようにしつつ、相手の全容を把握してしまう、これが出来ればいざ戦いとなっても勝てるということです。

③情報を集める

孫子は、スパイを重要視しています。それは、2500年も前から、情報戦が一番重要であることを理解していたからです。

勝つためには、敵のスキ(短気、金に弱い、等)を見つけ出す必要があり、そのためには、どうしてもスパイに頼る必要があるからです。ですので、スパイは大切にして、彼らから命がけの忠誠を引き出す必要があるのです。

しかし、スパイというのは、とても取り扱いが難しいものです。敵に捕まってしまえば、こちらの情報が漏洩してしまう可能性もあります。ゆえに個々のスパイには、スパイ活動の全貌を把握できないようにしておく必要があります。

また、相手のスパイを捕まえたら、どうしたらいいでしょうか。孫子の答えは「大切にする」というものです。相手のスパイをこちらに取り込んでしまえば、二重スパイとしてより強力な情報を得ることができるようになるからです。

④敵が弱るのを待つ

それでも相手が自分より強い場合には、相手が弱るのをじっと待つことが重要だと説きます。

つまり、戦いは、勝てる相手としかやらないということです。孫子ははっきりと「敗北する軍とは、まず戦闘を開始してから、その後で勝利を追い求めるのである」と言い切っています。戦略的合理性なく、勝敗は時の運という考え方は、断固として禁じています。

敵が常に良い状態で居続けるということは、まずありません。必ず、敵も態勢を崩すときが訪れます。むやみに勝負せず、自軍が攻撃すれば勝てる態勢になるのを待ち続ける胆力が必要なのです。そして、待っている間にしっかりと守備を整えることが重要だということです。

⑤敵の力を削ぐ

強い敵を倒すためには、敵の策謀を未然に打ち破ること、その次は敵国と友好国との同盟関係を断ち切ることが重要だと説きます。最も拙劣なのは強い敵の本丸(城)を攻撃することです。

また、こちらが攻めたい領域に敵の力が集中しているときは、敵の力が分散するように働きかけたり、敵の心理(もったいないなどの欲)を突いて、自分の有利な戦場に敵をおびき寄せたりすることが重要だと説きます。

⑥敵は迅速に倒す

ここで有名な「風林火山」という言葉が出てきます。攻めるときには、静かに、迅速に、烈火のごとく攻めるということです。

そして、戦いとは、敵国の意図を挫く点にこそ本質があるため、意図がすでにない状態になった敵国には、必要以上に追い打ちをかけないということです。敵を完全に包囲してしまうと、敵は生き延びる希望を断たれて死に物狂いで奮戦するからです。また、後で領地を奪う場合は保全したまま勝利することが良いと説きます。

また、戦いに固執するあまり、結果的に不毛な土地をめぐって大量の犠牲を出し続けるのは、愚の骨頂であると説きます。戦いでは、目的を達成したらすぐに引き上げることが肝心です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

孫子の生きた時代は、今より2500年も昔ですが、戦いというテーマにおいては、現代に生きる人々にも多くの示唆を与えるのではないでしょうか。

個人的には、敵を欺く、敵が弱るのを待つ、敵の力を削ぐといった点は、分かっていても忘れてしまうテーマだと思います。とても勉強になりました。

最後に、今回、参考にさせてもらった本を紹介します。

こちらは、「孫子」について丁寧にわかりやすく解説されている上、その時代背景を踏まえた忠実な内容になっています。さらに、最近新たに出土した竹簡本をテキストとして使用しているため、これまでの「孫子」の本よりもさらにリアル性を追求した内容となっています。