シンクタンクとコンサルの違い【シンクタンクは研究者、コンサルは経営者のキャリアに近い】

シンクタンクは国の政策支援をしている

私は、コンサルティングを生業としている。

コンサルティングにはたくさんの種類があって、一般の個人を相手にするものと、企業を相手にするものに分かれる。そして、企業を相手にするものでは、以下のように分かれる。

  1. 会社や事業の利益を向上するための経営戦略に対するもの
  2. 会計や人事や生産管理といった業務のプロセスを改善に対するもの
  3. システム導入を見据えた要件定義

①が戦略系といわれる類であり、②と③が総合系といわれる類である。すべてがデジタルに飲み込まれる現代では、②と③は切り離して考えることが難しいため、ほとんどの場合で②と③はセットである。

私は縁があって国や地方自治体といった公共領域での仕事をしたことがある。そのとき、公共領域では通常の一般の会社と似ている部分もたくさんあるものの、一部で異なる仕事が存在することを知った。それは、国の省庁に対する政策支援という仕事である。

政策支援というのは、平たく言えば、省庁が担っている数々の仕事について、省庁の役人の代わりに調査を行ったり、実行する際のお手伝いをすることである。この仕事を主たる業務として実施しているのがシンクタンクと言われる企業である。シンクタンクというのは、~~総研といった名称が付いていることが多い企業で、ご存じない方はググってみてほしい。

政策支援の仕事内容

シンクタンクでは、いわゆる上記の②と③の仕事も行っている(企業に対する①の支援は行っていない)が、その出自からして、やはりメインは政策支援である。政策支援というのは、省庁のホームページ上で公示(この案件がやりたい企業は手をあげてくださいというお知らせ)が行われて、それに対して資格があれば誰でも応札(この案件をうちにやらせてくださいと応募すること)できる。

具体的にどのような内容かというと、以下のような省庁のホームページ(経産省の委託調査報告書がたくさん掲載されたページ)を見れば、大手シンクタンクが作成した調査報告書を見ることができる。

https://www.meti.go.jp/topic/data/e90622aj.html

省庁は毎年、省庁の中の課ごとに政策の立案や実行に向けた作業をシンクタンクなどの民間企業に多数委託している。これらの委託では、厚労省であれば社会福祉、国土交通省であれば道路整備といった各々の政策について、国民や関係団体に対して政策効果の調査(アンケートを配って回答してもらうものが多い)を行ったり、どんな政策に改善すべきかを有識者といわれる人々を集めて協議する場のファシリテートをしたり、実際に実行部分の作業を手伝ったりする。

実は、1つの政策で毎年同じような調査が行われているのだが、毎年、アンケートで状況を調査して、大学の先生などのその道のスペシャリストを集めて、~~委員会と呼ばれる会議を行って意見を招集している。シンクタンクの政策支援では、それらの調査をしたり、会議のファシリテーションから取りまとめを行っている。

コンサルとシンクタンクのキャリアの違い

私は基本的には民間企業へのコンサルティングを生業としているが、公共領域を担当したときに数年、政策支援をかじった。そのときに感じたのは、シンクタンクがメインで行う政策支援というのは、研究者の延長線上の仕事であるということだ。

コンサルティングというのは、企業が利益を出すための支援であるから、必要になるのはビジネスの知識である。一方で、シンクタンクというのは、国が政策を実行するための支援であるから、必要なのは各々の政策に関する知識である。

国の政策というのは、ビジネスと同様に奥が深いもので、様々な省庁の政策に精通するというのは不可能である。それゆえ、シンクタンクのキャリアというのは、ある省庁のある課にしっかりと刺さりながら、1つのテーマ(たとえば、労働政策やエネルギー政策といった単位)の専門家になっていくことが求められる。それはまるで、大学の研究者に似ている。実際に、シンクタンクのキャリアの最終形として、自分が支援してきた政策領域を専門に取り扱う大学の教授になることも多い。

一方でコンサルティングは、一般企業の経営に近いため、ビジネスマンとしてのキャリアを形成していく。そのままコンサルタントを続けていく人もいるが、一般事業会社に移っていき、最終的には経営層を目指していく人もいる。それに、コンサルティングでは、シンクタンクのように1つのテーマに絞ってキャリアを形成していくのではなく、色々な業界の企業の色々なテーマ(会計、人事、など)を経験しながら、成長していくことが求められる。

コンサルとシンクタンクのスキルの違い

コンサルの仕事というのは、仮説検証に基づく戦略立案や業務・システム構想、その後の実行支援を行っていくことがメインとなる。スキルとしては、業界やソリューションへの専門性や仮説検証スキルが求められる。

一方で、シンクタンクの仕事というのは、相手が省庁(中央省庁は民間のように実業はなく仕事は主に政策立案と実行)となるため、スキルとしては、政策領域への専門性や政策調査スキルが求められる。

政策調査スキルというのは、戦略コンサルのように何か仮説を設定してそれを短期間でデータを集めて検証していくスタイルというよりは、基本的に最初から政策テーマが絞られている状態であるため、その政策への専門性に基づいた調査を設計し、1年くらいをかけて詳細に調査をしていき、その過程で大学の先生などの有識者との調整力が求められる。

コンサルティングでは、たとえば「海外市場開拓」といった漠然とした顧客からのテーマに対して、どのような製品をどのような消費者を対象にどのようなマーケティングやアライアンスで行っていくかということを、仮説設計とストーリー作りを行いながら、答えのない問いに答えを出していくことが求められる。コンサルティングでは、様々な業界の様々なテーマを扱うため、短期間でキャッチアップが必要なことも特徴的な点だ。

一方、シンクタンクでは「社会福祉における○○の調査」というようにテーマがある中、日本においてその政策にどのような課題があるのかを調査し、他国ではどのような打ち手を行っているかを調査したりする。その趣は、コンサルティングのように何かの対応施策を明確に打ち出すというよりは、張さによって事実を把握しにいって、対応施策は有識者との協議で決めていくという色合いが強い。

シンクタンクコンサルティング
調査目的現状確認解決策の立案
調査方法網羅型仮説型
調査期間中長期短期
調査結果膨大かつ詳細端的かつ必要十分
必要能力専門性地頭力